福岡高等裁判所 昭和24年(つ)648号 判決 1949年11月02日
被告人
守田伊智雄
主文
本件控訴を棄却する。
理由
檢事の控訴趣意並びに弁護人松岡益人の答弁はいずれも末尾添付の書面記載のとおりである。
右に対する判断
原裁判所が、被告人に対する傷害被告事件につき、昭和二十四年六月九日「被告人を罰金一万円に処する。但し、本裁判確定の日から一年間右罰金刑の執行を猶予する。」旨の判決を宣告したこと、並びに、被告人はこれより先、昭和十五年十月二日南支那方面軍法会議で、贓物牙保、業務上横領罪により懲役二年及び罰金二百円に処せられたことはいずれも本件記録によつて明らかである。そして右前科の懲役刑については、その前科調書の記載によつてこれを窺知することができるように、その軍法会議の裁判の言渡の当日、即日その裁判が確定している事実と、その確定裁判の執行か延引されたこと若しくは、後日その刑の変更があつたことを認むべき何らの事由も存しない事実とから推して、右懲役刑は裁判の確定と同時に刑の執行が始まり、刑期の二年を経過した、昭和十七年十月二日刑の執行が終つたものであると認められる。從つて、原判決が宣告された、昭和二十四年六月九日当時においては、右懲役刑を終つた日から、まだ七年の期間を経ていないこと計数上明白であるので、このように、懲役刑の執行を終つた日からまだ七年の期間を経ていない被告人に対して、執行猶予の言渡をした原判決は、刑法第二五條第二号の規定に違反し、法律上執行猶予の言渡をした、法令違反の瑕疵があること、まことに檢事所論のとおりである。
しかし、現在(昭和二十四年十一月二日)においては、右懲役刑の執行を終つた日から既に七年以上の期間を過ぎているのであり、本件記録にあらわれた諸般の情状によれば、罰金一万円、但し一年間右罰金刑の執行猶予の原判決の刑は、刑の量定として相当であつて、その刑の量定を不当として原判決の刑を変更すべき事情は、これを認めることができない。
すなわち、原判決は、その宣告当時を標準とすれば、法令の適用に誤があつてその誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであつたのであるが、現在を標準とすれば、執行猶予の言渡をすること法律上不能でないのであるから、執行猶予の言渡を附したからといつて法令の適用に誤があるということはできないし、又執行猶予の言渡をしたのは、刑の量定として相当であると認められるので、このように、刑の量定として相当であると認められる限りにおいて、宣告当時における原判決の右瑕疵は、前刑の執行終了の日から七年の期間を経過した、その期間の経過によつて治癒されたものであると解するのが相当である。
結局現在においては、原判決に法令適用前誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるということはできないことに帰着するので、檢事の論旨は、採用の限りでない。